「部活指導員」導入に課題-位置付けは「学校職員」-人件費どう捻出
2017年4月24日毎日新聞より2017
教員の長時間勤務の一因となっている部活動。文部科学省は今月から、教員の負担を軽くしたり、部活動を安定的に運営したりするため、部活動の指導や大会への引率をする「部活動指導員」を学校教育法に基づく学校職員に位置付けた。中学校の運動部には、校外から3万人近くの指導者が参加しており、教員から歓迎の声が上がる一方で課題もある。
●教員からは歓迎
「腕をまっすぐ振って」。東京都世田谷区の区立緑丘中学校。室内練習場にバレーボールのスパイクの仕方を教える声が響く。吉井ゆかさん(20)。教員を目指す日本女子体育大の3年生だ。2年前から、母校の緑丘中で女子バレー部のコーチをしている。
吉井さん自身も中学時代は外部からのコーチに指導してもらった。「コーチがいる時の練習中の緊張感は全然違った。技術的なことも聞きたいことが聞けた」と振り返る。普段は週4日1~2時間、練習に参加している。都中学校体育連盟が主催する春季大会の地区大会を勝ち抜いて、都大会に進むのが目標だ。
バレーの競技経験がない石川あずみ教諭(26)は、緑丘中に赴任して2年目に女子バレー部の顧問を任された。「バレーは体育の授業でやった程度。練習メニューや試合運びどころか、ルールもほとんど分からない。吉井さんに助けられている」という。
世田谷区は2006年、保護者や大学生ら地域の人に部活動に協力してもらう「部活動支援員制度」を設けた。各学校が指導してくれる人を探し、区の要綱に基づいて委嘱する。支援員には、教員が生活指導や安全管理だけをする場合に技術指導を全面的に任される「監督」や、吉井さんのように顧問の教員の技術指導をサポートする「指導員」など5種類あり、1時間あたりの謝礼は1000~800円と規定されている。
区立中の部活動数377に対して支援員の数は438人(15年度)。一つの部に1・16人いる計算だ。区教委生涯学習・地域学校連携課の土屋雅章課長は「経験のない競技を指導するのは、精神的な負担が大きい。地域の人なら、教員が異動しても継続的な指導ができる。この制度なしに世田谷区の部活動はあり得ない」と話す。
●引率も職務に
文科省が「部活動指導員」を学校職員に位置付けたことで、今後は指導員も顧問ができ、引率も職務になる。文科省は各都道府県教委などに勤務形態や報酬などの規則を整えることも通知で求めた。土屋課長は「部活動指導員の導入は画期的だ。ただし、部活動は教育の一環。試験期間など学校の予定への配慮や、強くなることだけに偏らない指導ができる人でないと困る。学校職員になれば責任も重くなり、現在の支援員の身分をすぐに部活動指導員に切り替えるのは難しい」と語る。
岡山県教委は、文科省が想定する「部活動指導員」を先取りしている。16年度に始めた「運動部活動支援員派遣事業」だ。支援員は中学か各市町村教委が探す。県の要領に基づいて非常勤職員として雇用され、勤務は原則1週間に7時間以内。報酬は1時間2740円だ。学校が顧問の教員を置いていない部活動の単独指導や試合への引率もできる。
16年度は政令市の岡山市を除く県内26市町村のうち21市町村の46校52部に51人が派遣された。昨年12月のアンケートでは、支援員がいる部活動の顧問を務める教員の94・3%が、負担が軽くなったと感じていると回答した。県教委保健体育課の担当者は「学校全体としてさらに負担軽減になるようにしたい」と話す。県中学校体育連盟は今年度から県が雇用する支援員の単独引率を認めた。
外部指導者を市の非常勤特別職員にしている横浜市も「部活動指導員」を導入するか検討している。現在は1回2時間程度で報酬は3000円、勤務は月5回まで。市立中学校体育連盟は今でも外部指導者の試合への引率を認めている。市教委の宮城篤・指導企画課長は「学校職員になって責任が重くなると成り手が減る可能性もある。人件費も現在の何倍も必要になるだろう」と課題を口にした。
外部支援、中学3万人
日本中学校体育連盟(中体連、本部・東京、加盟約1万校)によると、部活動の外部指導者は全国で2万9555人(16年度)。部活動一つあたりの人数は山形県が0・95人で最も多く、岩手県0・75人、岐阜県0・65人と続く。
少子化に伴って教員数が減り、部活動の顧問の確保に苦労している学校も多く、外部指導者を招く学校は増えている。しかし、中体連主催の大会では、顧問の教員が引率できない場合、他校の教員が代わりを務めるのは認めているが、外部指導者の引率は認めていない。部活動は学校の教育活動で、民間のクラブチームの活動などと一線を画すというのが理由だ。
3月の文科省通知を受け、中体連は、学校職員の立場となる「部活動指導員」に限って引率を認めることを検討している。担当者は「18年度の全国大会で引率できるようになるかもしれない」と話す。各都道府県の中学校体育連盟が主催する大会はそれぞれが判断するという。
一方、全国高等学校体育連盟(高体連、本部・東京)も部活動指導員による引率について議論している。